「横浜野菜推進委員会」や「濱の料理人」といった地産地消の取り組みを幅広く行っている椿直樹さん。いずみ野駅から徒歩1分の場所にある椿さんのお店「ど根性キッチン」で、横浜野菜に対する思いなどについてお話を伺いました。
ー2016年8月に、いずみ野で「ど根性キッチン」を開店した経緯をお教えください。
保土ケ谷区で生まれ育ち、中区や西区で長く働いていて、それまで泉区に足を運ぶ機会がありませんでした。スーパー給食のときに、初めていずみ野を訪れたんです。駅のすぐそばに畑が広がっていて、「ずいぶんのどかなところだな」と驚きました。そこで区内の生産者を紹介してもらい、泉区には野菜や果物はもちろん、食肉や牛乳、鶏卵なども生産されていることを知ったんです。
もともと自分の1軒目の店でも横浜産の食材を積極的に使っていましたが、泉区ならさらに地域密着型の地産地消を実践する飲食店ができるなと思いました。その後、縁があって昨年の開店に至るのですが、実際にこの店で使っている食材の約9割が泉区産のものです。
ー椿さんは15年以上にわたって地産地消に取り組まれていますが、横浜野菜に対する考え方などで変化はありますか。
横浜でつくられている野菜は、キャベツやコマツナ、トマトなど、一般的なものがほとんどです。もっと人目を引くような野菜がないと、横浜野菜の認知度が向上しないだろうと思っていました。でも、生産者の方々と付き合いを深める中で、自分の考えが浅はかだったと反省するようになりました。
われわれ料理人は、熟慮を重ねて一皿の料理をつくります。同じように、生産者の方もさまざまな知恵やアイデアを絞って野菜をつくっています。口には出さないまでも、自分が手塩にかけて育てた野菜に対してひとかたならぬ思いを抱いているんです。
地元で収穫された旬の野菜は当然ながらおいしいのですが、それだけではありません。生産者の思いや人柄を知り、その野菜がつくられた背景が分かると、おいしさだけでなく愛着も感じられるようになります。何度も畑に足を運び、生産者の方々と言葉を交わす中で、その野菜に込められた思いも含めて紹介することが、私の務めなんだと考えるようになったんです。
ーそういった考えから、店内に生産者の写真や情報を掲示しているんですね。
椿 直樹 お客様が「横山さんのトマト、おいしいね」と言葉を交わしたり、「このコマツナ、食べてみて」とシェアしたりしている様子が、厨房から見えます。とても喜ばしいことですし、そういった何気ない会話からでも自然と横浜野菜の魅力が広がっていくのではないかと思っているんです。
それと、店内に生産者の情報を掲示することには、別の意味もあります。常に生産者の方を意識することで、「食材をいい加減に扱うなよ」という自分への戒めになっているんです。もっとも、お客様は堅苦しく考えず、気軽に料理を楽しんでいただきたいと思っています(笑)。
ー地産地消の意義を頭では理解できても、一般的な家庭で実践するには難しい面もありますよね。
そこで野菜を購入し、調理する際に、生産者の方の顔や直売所で交わした言葉を思い返す。あるいは、その料理をいただくときに「これは地元の野菜なんだよ」と家族の会話の糸口にする。週1回といわず月1回でも、そういった食事の場があるだけで、かなり変わってくるのではないでしょうか。
そもそも料理をつくる際に、思いを馳せることはとても大事です。その料理が食卓に並んだ際に、家族がどんなリアクションをするのか。お弁当箱のふたを開けた瞬間、お子さんがどんな表情になるのか。そういった光景に思いを馳せるのと馳せないのとでは、自然と料理も変わってきます。その思いを馳せる輪の中に、地元の生産者の方も加わると、食事がより豊かなものになるのではないかと思うんです。