【横浜市泉区上飯田町】 「横浜野菜が当たり前にある環境をつくりたい」石井 利明

年間約60品目の野菜を栽培する「石井農園」の石井 利明(いしい としあき)さん。オススメの野菜は桃太郎という品種のトマト。大根、キャベツ、ブロッコリー、きゅうりなどの定番野菜も栽培しています。


ー1月、2月頃に収穫できる野菜で、オススメの食べ方を教えてください。

石井 利明 1、2月の時期はハウス栽培と露地栽培の野菜があるので、それぞれの特性に合わせた食べ方をオススメします。

ハウス栽培は野菜に負担のかからない環境。例えば葉物野菜は、葉がやわらかくなります。この食感を楽しむために、できるだけ「生」に近い状態で食べるのがオススメ。かぶは、漬物にするとか。

露地野菜は、厳しい寒さや強い風にさらされながら成長しているので、甘みが濃くなっています。食感もしっかりしているので煮物などが適しています。

私たちは小松菜をハウスと露地で育てていますが、見た目の色の濃さ、葉の感じもまったく違います。同じ野菜でも育て方の違いで、調理方法を変えてそれぞれの食感、味を楽しんでほしいと思います。

ハウス栽培の小松菜

露地栽培の小松菜

ー「横浜野菜」を特別ではないもの、日常的なものにしたい、という思いがあるそうですね?

石井 利明 横浜・泉区というエリアで農業を営むことの一番のメリットは、畑のすぐ近くに住んでいる人が多くいることです。これは、なにものにも代えがたい。遠くからお客様を呼び込んでくる必要が無いのです。敷地内にある無人の直売所でも、近所の人が利用してくれます。散歩の途中の人やおつかいを頼まれた子どもたちが買いにきてくれる。そういう関わりが普通に持てる環境です。

私たちはスーパーの野菜売り場でも直売をしています。毎日、野菜を配達し、バーコードを貼って陳列する。時間的にも作業的にも負担にはなりますが、土日にしか直売所に行くことができないお客様も多くいます。スーパーという日常的に買い物をする場所に毎日、同じ場所に同じ人が作った野菜がある、ということがとても大事なのです。「横浜野菜」を特別ではないものにする。これが横浜という場所で、私たちのできる都市農業のカタチです。

ーそれを実現するために、どのような取り組みをしてきたか教えてください。

石井 利明 高校と大学で農業を勉強してきました。家が農家なので、いつかは継ぐことになるんだろうなと、考えてはいました。しかし、学校で農業を勉強すればするほど、農業の大変さを知っていくことなります。28歳で就農したのですが、どちらかというとイヤイヤ始めた感じはあります(笑)。しかし、ある時期におしりに火が付いたように、もう真剣にやらないとまずい、と決意しました。そこからはポジティブに考え、ビジネスとしていい状態にもっていくための試行錯誤が始まりました。

当時はすべて市場へ出荷していました。あるとき、ひとつの疑問をきっかけに考え方を変えました。それは「出荷した野菜の値段は、誰が、何を基準に決めているのか?」ということ。値段を決めるためには、市場への出荷ではなく自分で売るしかないと考えました。ちょうど、周辺の生産者の中にも直売を始める方が出始めた頃でした。そして市場出荷と並行して直売を始めました。
現在、自宅の直売所、スーパーの野菜売り場内に専用の販売コーナーがある店舗が2つ、花などと一緒に野菜を売っている直売所が1つ、計4か所で野菜を直売しています。

ー直売で一番大事にしていることを教えてください。

石井 利明 お客様の満足度を高めるための野菜を作ることです。自分で売りたい値段を決めることができるのは、お客様を満足させられる野菜を作ることができる人だけです。この人が作っている野菜だから、私はこの野菜を買うというお客様がいるかどうか。お客さまが満足してくれないと何も起きません。就農して7年になりますが、最近ようやくそれが実感できるようになってきました。

お客様の満足度を上げるためには、作り手の意識改革が必要です。「作った野菜を直売所で売る」のではなく、「直売所で売れる商品を作る」という考え。直売で商品を売るためには、お客様に選ばれる商品をつくることはもちろん、お客様が商品を手に取ってくれるような売り方も必要。例えば、大根。葉をすべて取ってしまうのではなく、葉付きのまま売る。葉もつけて売るということは、葉がキレイなものを選別しなければなりません。その分、手間もかかりますがキレイな葉であれば、いままで葉を捨てていた人が葉も食べてくれるようになるかもしれない。そして葉の美味しさに気がつく。そうなっていくと、お客様は大根を買うときはできるだけ葉付きのものを探すようになるし、「石井農園の大根は葉付き」という商品イメージが定着していれば、お客様が安心して買うことができるようになっていくと思います。

ー直売を通じて、地域の人との関係性もつくりあげているんですね。

石井 利明 売り場に立つことはないので、常にお客様と会話をしているのではありません。しかし、野菜の売れ行きを丹念に見ているとお客様の求めているもの、そうでないものが見えてきます。また、野菜を置いているお店に感想を伝えてくれるお客様もいるので、間接的にお客様の反応を知ることができます。ときには、野菜の陳列中にお客様と会話する機会もあります。

あるとき、一度だけ春菊の味が苦いという苦情がありました。そのとき、なぜそうなったのか、原因を考えました。お客様が不快に思う原因を追究し、改善できるものであれば改めていく。お客様の目線を常に意識することで野菜作りに対する責任感も増します。

直売を通じて、お客様の求める野菜を知り、それに応える野菜を作る。そうした関係性を地域の人たちと作っていっているという感覚です。また、直売所では他の生産者との切磋琢磨もある。お互いにいい野菜を作り、どうやって売るのかということを競い合っていくことで、さらにお客様の満足度が上がっていくという好循環が生まれるのです。

ーその環境を増やしていくために必要なことは何でしょうか?

石井 利明 継続するための仕組み・土台作りと、将来を見据えた地域との関係性でしょうか。誰か一人の頑張りだけでは、安定的に続けられることに限界があるかもしれません。また、生産者だけの取り組みでもダメで、購入してくれる地元の人も含めた環境づくりが必要です。

最近、この周辺でも農地が減ってきています。できるだけ農地を減らさないよう、誰かがその農地を借りてでも農業を継続していける仕組みが必要。
売上げを上げる方法を考える、お客様の求める商品を作る、お客様の満足度を上げる、農地を借り受ける、より多くの野菜をつくるために新しい人を増やしていく。そういう仕組みを継続するための土台を作る、ということだと思います。

そういう成功事例が増えていくことで、後継者や新規参入も野菜を購入してくれる人も増えていくのではないでしょうか。それが地域の人にもメリットとなり、お互いに地域を盛り上げていくことにつながると思います。

石井農園


石井農園の野菜は、下記の4か所で購入できます。

そうてつローゼン 緑園都市店
そうてつローゼン 弥生台店
グリーンファーム あい菜フローラ店
自宅敷地内の無人直売所